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最高裁判所大法廷 昭和28年(オ)720号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人等の負担とする。

理由

上告代理人鍛治利一の上告理由第一点について。

所論公職選挙法の一部を改正する法律により新たに設けられた第二〇九条の二の規定は、当選の効力に関する異議、訴願及び訴訟等において、いわゆる潜在的無効投票のあつた場合につき、当選人を決すべき各候補者の得票数の計算方法を明確ならしめたものに過ぎないのであるから、右改正法附則二項が右規定を既に裁判所に繋属していた事件にまで適用すべきものとしたからとて憲法三一条違反の問題を生ずるものではない。さればこの点に関する原判決の判示は、その理由を異にするけれども結局正当であつて論旨は採用の限りでない。

同第二点について。

論旨は、原判決が上告人主張にかかる潜在的無効投票の存在は上告人等の証拠によつてはいまだこれを認めるに十分でないと判示したことを違法であると主張する。しかし、原判決は右の判示に続いてかりにかかる無効投票が存在していたとしても、前掲公職選挙法二〇九条の二の規定に従い、その無効投票数を各候補者の得票数に按分して計算すれば、本件当選人の当選の効力には何等影響するところはない旨判示しているのであり、しかもこの点に関する原判旨は首背し得る。それ故かりに原判決に所論のような違法があるとしても原判決の主文を左右するに足りない。論旨は採るを得ない。

同第三点について。

原判決が所論検甲第二五七号の投票を樋口清に対する有効投票と認めたことは論旨の指摘するとおりである。しかし、論旨は右の投票にはその表面に樋口清との記載があり、ただその裏面に大森喜之助なる記載を一本棒を引いて抹消してあるというに過ぎないのであるから、原判決がこれを書損した文字を抹消したに止まり意識的な他事記載とは認め難いとして樋口清に対する有効投票に算入したのは正当であつて、論旨は理由がない。

同第四点について。

記録によれば、本件訴は昭和二六年九月八日原審に提起されたものであり、原判決は同年一〇月二〇日の第一回口頭弁論期日以来同二八年四月二八日の最終口頭弁論期日に至るまで前後一二回の弁論期日を経て審理をなした上、同年六月一三日に言渡されたものであるところ、所論検証の申請は右最終口頭弁論期日においてなされたものであり、その立証せんとする事項も同日はじめて主張せられたものであることが窺われる。そして右訴訟の経緯に徴すれば、原審は時機におくれた攻撃方法として該申請を却下し弁論を終結したものと認めるのを相当とすべく、しかも時機におくれた攻撃方法である以上、たとえ一定の要証事項に対する唯一の証拠方法であつても、これを却下し得べきことは勿論であるから、右原審のなした措置は首肯し得る。それ故原判決には所論のような違法はなく論旨は採るを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 栗山茂 裁判官 真野毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 池田克)

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